統合的人生設計(IIL: Integrative Life Planning)という、人生やキャリア設計での包括的なアプローチを提言したサニー・ハンセンというキャリア理論家がいます。
ハンセンは、仕事を他の生活上の役割との関係のなかで、または人生の中でとらえようとしました。
さまざまな情報がとびかう現代の世の中においては、人生設計に関してもパラダイムシフト(基本的な考え方の変革)が必要だといっています。
統合的人生設計(IIL: Integrative Life Planning)を知ることで、働き方や仕事についての視点を大きくひろげることができるかもしれません。
- 統合的人生設計が含むもの
- 4つの役割
- 6つの重要の課題
この記事では、サニー・ハンセンの統合的人生設計(IIL)のポイントを簡潔に解説します。
父親の人生と自分の人生を重ねあわせたOさん
Oさんは、最近よく亡くなった父親のことを思いだします。
父親は亡くなる少し前に、もっと家族と一緒に時間を過ごせばよかったといいました。
その言葉を聞いたOさんは、今まで家族をささえ育ててくれた父親を立派だと思う反面、そんなことを今さらいっても遅いという気持ちが生まれてきました。
そして父親の人生を考えながら、自分はどうだったかと思い始めました。
父親の人生と自分の人生を重ね合わせたとき、これからどのように生きていくのが良いのかと思ったのです。
いつまでもやりがいをもって仕事をしたい、家族との関係を大切にしたい、社会や地域へ貢献したい。
そんな気持ちをもっているのですが、整理がつかずなぜかモヤモヤするのでした。
統合的人生設計が含むもの
統合的人生設計(IIL: Integrative Life Planning)は、キャリアという概念のなかに、生命のこと、生活上の役割や文化、地球や地域、考え方や知り方などを含んでいます。
まさに人生における個人や社会のさまざまな役割を含めて統合した考え方です。
グローバル化や情報化の中で私たちの周りの環境が複雑になり、個人のキャリアも多様化し、人生における選択や意思決定を支援する新しい考え方が必要になっているのです。
人生の4つの役割(4L)
ハンセンは、スーパーのライフ・キャリア レインボーの考え方に影響をうけて、キャリアにおける役割をとても幅広く定義しました。
スーパーのライフ・キャリア レインボーについては以下の記事を参照してください。
統合的人生設計では、キャリアには人生の役割がすべて含まれており、人生の4つの役割が統合されるべきだとしています。
人生4つの役割とは、「仕事」、「愛」、「学習」、「余暇」です。
この4つの役割のどれかひとつが大切という事ではなく、役割それぞれが組み合わさっていくことで、人生をより豊かにできると考えます。
幅広い視野をもつことが大切です。
働くことや仕事、家庭や子育て、学びや教育、地域活動などの仕事以外の活動などの人生の役割が組み合あさって意味のある全体になるとしています。
スーパーが人生の役割を「虹」にたとえたのに対して、ハンセンは人生の役割を「キルト(パッチワーク)」にたとえました。
これは人生の役割がパッチワークのように組み合わさって全体ができているということをあらわしています。
人生をキルトという芸術作品にたとえて、心のぬくもりや精神の育みを表現したともいわれています。
またキルトにたとえたのは、ピースをつなぎあわせればいくつでもつながる、つなぎあわせればいくらでも広がること。
ピースの組合せ自体がつくり手にとって意味があり、その人の役割の組合せは、ひとそれぞれに違うという事でもあるのです。
人の人生はいろいろな役割が組み合わさってできていて、いくつ組み合わせるか、どのように組み合わせるかで、その人の人生が出来上がっていくというわけです。
統合的人生設計6つの重要課題
統合的人生設計(IIL: Integrative Life Planning)は、個人のニーズや願望だけではなく、地域社会や世界的なニーズをも考えに入れた総合的な「キルト」を完成させるものだとしています。
そのうえで、より具体的な課題と行動を6つの重要課題にまとめています。
- グローバルな視点から仕事をさがす
- 人生を意味のある全体のなかに織り込む
- 家族と仕事をつなぐ
- 多元性と包括性に価値を置く
- スピリッチュアリティと人生の目的を探求する
- 個人の転機と組織の変化のマネジメント
ひとつずつ見ていきます。
①グローバルな視点から仕事をさがす
これまでのキャリアに対する一般的な考え方は、個人の興味や能力、ニーズや価値観にあったものを選択すべきというものでしたが強調されすぎていたかもしれない。
どうすれば仕事をとおして自分自身のニーズを満たせるかということにあわせて、どのように社会や世界の問題や、ニーズを解決する援助ができるかを考えるべき。
②人生を意味のある全体のなかに織り込む
職業選択においては、人生の様々な役割と職業をどう組み合わせることができるかをかんがえるべき。
キャリア支援をするうえでは、仕事の選択だけではなく、人生における社会的、知的、身体的、スピリチュアル、情緒的、キャリア/職業的の統合を支援することが大切である。
③家族と仕事をつなぐ
家族と仕事をつなぐことを課題として取り上げ、特に家庭の中で男性と女性が共同で人生設計を行う必要がある。
男女が育児、家事、親の介護などを、それぞれがキャリアを持ちながらどう分担していくかを慎重に検討する必要がある。
男女が平等のパートナーとして協力し合うことが大切。
④多元性と包括性に価値を置く
人種、民族的背景、社会・経済階級、宗教、年齢、性別、身体能力、性的思考などの多様性(ダイバーシティ)を認識して重んじるべき。
人生設計においても、このような違いをすべて包括する道を探るべき。
⑤スピリッチュアリティと人生の目的を探求する
仕事をとおして貢献する、仕事を通じて内面的な意義を見出す。
仕事を通じて精神的な意味、人生の目的を探求する。
⑥個人の転機と組織の変化のマネジメント
これからの社会には、今以上に激しい環境変化がまっているため、各個人が自分自身の人生の変化に対処する術を知ることが必要となる。
組織構造の変化や、それに対処するための働き方の変化に対応するための支援をすべき。
これらが統合的人生設計6つの重要課題ですが、ハンセンは晩年になり、7つ目の重要課題として「健康」をあげるようになりました。
心や体の健康に注意を向けることは、統合的な発達に重要だと提唱しています。
セカンド・キャリアは役割の組合せを考える
父親の人生と自分の人生を重ね合わせたとき、自分はこれからどのように生きていくのが良いのかと思ったOさん。
父親の時代と自分の時代では環境の違いも大きいことに気がつきました。
そして、これからの自分の役割は何かを考えようと思いました。
仕事のこと、親の介護や家族のこと、地域への貢献などを、どのように組み合わせて自分にとって最適なセカンド・キャリアを選択するか。
まずはキャリアコンサルタントに相談して、自分の人生設計を考えて、行動してみることにしました。
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