キャリア・アンカーとは|54歳で働く意欲がなくなったHさん

キャリア・アンカーとは

組織心理学という分野を開拓した、エドガー・H・シャインというキャリア理論家がいます。

シャインは、キャリア理論を組織と個人の相互作用という視点で考えました。

中でもシャインの理論の代名詞ともいえるのがキャリア・アンカーです。

キャリア・アンカーとは、人がキャリアをつくっていくときに、最も大切にする価値や欲求のこと。

錨を沈めた船が動かないように、人の心の中にある譲ることのできない職業上の自己イメージのようなものです。

  • 「外部キャリア」と「内部キャリア」とは
  • キャリア・アンカーとは
  • キャリア・アンカー3つの要素とは

この記事では、エドガー・H・シャインのキャリアの理論を、キャリア・アンカーを中心に解説します。

目次

54歳で働く意欲がなくなったHさん

54歳になったHさんは、最近すっかり働く意欲がなくなってしまいました。

会社のなかでの昇進争いにも決着がつき、昇進のチャンスはもうありません。

若い時には情熱をもってやっていた仕事も、最近では自分のやりたいこととずれてきた感じがします

自分は何のために働いているのか。

これからどうやって働いていくのか。

来年は55歳、役職定年がやってきます。

今は課長ですが、来年になれば課長という地位もなくなり、給与も半減だと思うと、さらに意欲がなくなってしまいます。

外的キャリアと内的キャリア

シャインはキャリアを「外的キャリア」と「内的キャリア」という2つの軸でとらえています。

外的キャリアとは、職業、地位、資格、年収といった外から見たキャリアのことです。

そして内的キャリアとは、働きがいや生きがい、仕事にたいする動機や意味づけ、大切にしたい価値といった心理的なキャリアのこと。

会社などの組織で働く場合には、「外的キャリア」と「内的キャリア」の2つの軸によってキャリアが形成されていくのです。

組織の中では「外的キャリア」と「内的キャリア」を順にみていきましょう。

外的キャリアはキャリア・コーン

外的キャリアの観点から、シャインが表したモデルが、「キャリア・コーン」という組織の3次元モデルです。

このモデルでは、組織内でのキャリアは3つの方向性によって掲載されると考えられています。

キャリアコーン
組織内における3つのキャリア形成の方向
  1. 組織の垂直方向:職位や職階を上がる(下がる)移動によるキャリア形成
  2. 円周上に沿った水平方向:職能(専門領域)での移動によるキャリア形成
  3. 組織の中心に向かうことによって形成されるキャリア形成

ひとつめの組織の垂直方向とは、職位や職階を上がる(下がる)移動です。

具体的には係長や課長、部長などの職に就くといった昇格や昇給などになります。

2つめの円周上に沿った水平方向とは、職能(専門領域)の移動であり、具体的には、営業部から人事部へといった移動によって経験をつむキャリア形成です。

ジョブローテーションなどもこの方向の移動になります。

3つめの組織の中心に向かうとは、特定の職の部門で長く職務に就くことによって、その職のエキスパートになるということです。

中心に向かって移動することで、組織にとっての自己の重要性が変化するという場合です。

このようにして組織の中でのキャリアが形成されるというのが外部キャリア形成の考え方です。

内的キャリアはキャリア・アンカー

心理的なものである内的キャリアの現れかたとしてシャインが示したのが、「キャリア・アンカー」です。

キャリア・アンカーとは、経験の蓄積をとおして次第にできあがった職業上の自己イメージ。

アンカーとは船の錨であり、あなたが働くうえで大切にしたい価値や欲求であり、船の錨のようなものです。

シャインは長年の調査の結果、以下の8つのキャリア・アンカーを見出しています。

8つのキャリア・アンカー
  • 専門・職能別コアコンピタンス ― 専門性を高めていくことに満足感を覚える 
  • 経営管理コアコンピタンス ― 責任ある地位にたち、高い収入を得ることに喜びを得る
  • 自立・独立 ― 組織に束縛されず、自分のペースや自分が納得する仕事の標準を優先する
  • 保障・安定 ― 安定した仕事や報酬、将来を予測できる仕事をしたいという欲求を優先する
  • 起業家的創造性 ― 自分で新しい組織やサービスを生み出すことに楽しみや充実感を覚える
  • 奉仕・社会貢献 ― 自分の仕事をとおして「何らかの形で世の中を良くしたい」欲求が強い
  • 純粋な挑戦 ― 無理と思う課題や手ごわい相手に打ち勝つことに満足感を覚える
  • 生活様式 ― 個人だけでなく、家族や会社のニーズとの調和を大切にして統合したい

こういったキャリア・アンカーが、働くうえでの自己概念の一部になっているわけです。

キャリア・アンカーは、職業上の自己イメージですが、職業には様々な要素があり1対1で結びつけるものではありません。

またこの方向にいくだろうと予測するようなものでもありません。

キャリア・アンカー3つの要素

キャリア・アンカーは3つの要素から現れてきます。

以下の図の3つの円が重なった部分がキャリア・アンカーです。

キャリア・アンカー3つの要素
キャリア・アンカー3つの要素
  • モチベーション(自覚された動機と欲求):何をやりたいか?
  • コンピテンシー(自覚された才能と能力):何が得意なのか?
  • バリュー(自覚された態度と価値):何をやっていると充実するか?

あなたは、どんな仕事がしたいでしょうか?

あなたは、どんな仕事が得意でしょうか?

あなたは、どんな仕事をしているとやりがいを感じるでしょうか?

この3つの質問に答えることで、あなたのキャリア・アンカーをイメージすることができます。

Hさんのセカンド・キャリア

Hさんは、今まで一生懸命働いて会社に認めてもらい、組織の中での昇格や昇給をはげみに頑張ってきました。

外的キャリアを重視して働いてきたわけです。

ところが地位や昇給といった外的キャリアが望めくなり、仕事に対する意欲がさがってきたのですね。

組織のなかでの、存在意義を見失いつつあるのかもしれません。

一方でHさんは今まで、内的キャリアについては、あまり考えてこなかったといいます。

内的キャリアは、大切にしたい価値や欲求です。

人生のセカンド・キャリアは、外的キャリアよりも内的キャリアを重視した働き方が良いのかしれません。

自分棚おろしをして自分を見つめ直したHさんは、自分のキャリア・アンカーについて考えました。

「今の自分の仕事や働き方は、自分らしくないかもしれない」

自分のキャリア・アンカーに気がつくことで、これからの働き方のイメージが少しできてきたようです。

Hさんは、セカンド・キャリアについて考え始めました。

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