キャリア構成理論という、キャリアを人生のストーリーとして自らつくるという考え方を提唱した、マーク・L・サビカスというキャリア理論家がいます。
サビカスは、働いているという客観的なキャリアよりも、意味のあるストーリーとしての主観的なキャリアを重視しました。
過去の経験、現在の経験、そしてそこから繋がる未来のキャリアに焦点をあてています。
変化が多く、将来の見通しを立てることが難しくなった現在の大きな課題は、自らの人生をデザインするということです。
- 職業的パーソナリティとは
- キャリア・アダプタビリティとは
- ライフテーマとは
この記事では、マーク・L・サビカスのキャリア構成理論のポイントを簡潔に解説します。
あなたが今までの経験のストーリーから、これからの人生をデザインする参考になるかもしれませんよ。
転職5回のUさんのライフテーマ
Uさんは58歳の会社員です。
最近開かれた会社のセカンド・キャリア研修に参加して、ライフライン・チャートを描きました。
「振り返ってみると社会人になって今まで、転職を5回して、いろいろなことをしてきたな」
自分のライフライン・チャートをながめて、そんな風に感じたUさんでした。
でも一方で、今までの人生は生きていくのが精いっぱいで、行き当たりばったりだったかなとも感じています。
定年も近くなったUさんは、自分は何を大切にして働いてきたのだろうと考えることが多くなりました。
これからの人生を、どう生きていけばいいのかなと不安になったのです。
キャリア構成理論の主要概念
変化がはやく不確実性が高くなった今の社会では、スキルや能力を開発し続けることも必要ですが、「自分を持ち続ける」ということがより重要になっています。
誰かからいわれて行動するのではなく、自分の人生を自らデザインし、一見バラバラに見える経験を、統一感のあるストーリーに組み立てていく。
客観的な仕事に注目するのではなく、その人が生きてきた職業人生に主体的にかかわることが大切なのです。
キャリア構成理論は、現代人が自分を見失うことなく、人生のストーリーを自ら構築していくキャリア理論です。
サビカスが提唱したキャリア構成理論の主要概念は以下の3つです。
- 職業的パーソナリティ ― What(何を)
- キャリア・アダプタビリティ ― How(どうやって)
- ライフテーマ ― Why(なぜ)
それぞれの概念をひとつずつ見ていきましょう。
職業的パーソナリティ
キャリア構成理論で「What」(何を)にあたるのが、職業的パーソナリティです。
サビカスは職業的パーソナリティを「個人のキャリアに関連する能力、ニーズ、価値観、関心」と定義しています。
職業的パーソナリティという考え方は、個人と仕事をマッチングさせるために客観的に個人の特性をはかるということを目的とした特定因子論にも存在します。
たとえば6つのホランドタイプなどが代表的な特定因子論です。
しかしキャリア構成理論の場合には、より主観的にキャリアをみるため「個人が環境(職業)とどの程度あてはまりそうなのか?」を測るための「手がかり」であると考えています。
特性を見分けるという考え方を、キャリアを構築するうえで可能性のひとつとして見ているわけです。
キャリア・アダプタビリティ(キャリア適合性)
キャリア構成理論で「How」(どうやって)にあたるのが、キャリア・アダプタビリティです。
つまりキャリア・アダプタビリティは、「ありたい自分」になるための方法です。
キャリア・アダプタリティは「現在あるいは直近の職業的発達課題、職業的移行、個人的トラウマなどに対処するための個人のレディネスおよびリソース」と定義されています。
なんか難しいですね。
簡単にいえば、ひと昔前の安定した社会ではなく、今の不確実で機動性が必要な社会の変化に対応するための能力です。
目まぐるしく環境が変化する時代には、いかなる環境にあっても、新しい状況にあわせて適応し、キャリアをつくりあげていく能力が重要になります。
サビカスは、キャリア・アダプタビリティを高めることで自己概念を実現できる、つまり「ありたい自分」になることができるといいます。
キャリア・アダプタビリティは、「関心」、「統制」、「好奇心」、「自信」の4次元からなります。
キャリアに関心があり、コントロールし、好奇心を持ち、自信を持っている人は、環境の変化や移行に対応し、変化し続ける状況に対応できる可能性が高いということですね。
キャリア・アダプタビリティの4次元をひとつずつ見ていきましょう。
キャリア関心
キャリア関心は、自ら職業上の未来にかかわることであり、キャリア・アダプタビリティの1番目の次元です。
未来志向であり、未来に備えることが重要であるという感覚をもつこと。
この感覚を持つことで、人は自分の過去を振り返り、現在を考え、未来を計画することができるようになります。
キャリア関心をもつことで、今日の努力が明日の成功にどのようにつながっていくかについて思い描くのです。
「私に未来はあるのか?」という自問自答で、自分の未来に関心を持った人は、次に「誰が私の未来を所有しているのか?」について考えようとします。
キャリア統制へとつながります。
キャリア統制
キャリア統制は、自らのキャリアを構成する責任は自分にあると自覚し確信することを意味しています。
自分の未来に対して、自らがコントロールしているという感覚をもつことで、偶然をまつのではなく主体的な選択によって未来を創造するという信念と態度をもつこと。
職業上の未来を自分が統制できると確信した人は、次に「私は自らの未来をどうしたいのか?」と考えます。
つまり、自分の可能性と未来に対する好奇心をもつようになります。
キャリア好奇心
キャリア・アダプタビリティの3番目の次元は、キャリア好奇心です。
キャリア好奇心とは、自分と職業を適合させるために、好奇心をもって職業にかかわる環境を探索することです。
職業について計画的に調べたり、試行錯誤をしたり、新しいことに挑戦し未知なる世界へ冒険しようとする行動をおこさせます。
自分の未来に対して好奇心をもった人は、自分の願望について、「私はそれを実現できるか?」という自信について考えるようになります。
キャリア自信
キャリア・アダプタビリティの4番目の次元は、キャリア自信です。
キャリア自信とは自らの願望を実現できる自信であり、挑戦し障害を克服することによって得られる成功の予期です。
キャリア自信は、職業選択を行うときに必要となる一連の行動を適切に実行できるという自己効力感のこと。
「わたしならできる」という感覚ですね。
キャリア自信に関する信念や態度、能力によって人生の転機やトラウマに対処克服することが可能になります。
ライフテーマ
キャリア構成理論の主要概念の3つめがライフテーマです。
キャリア構成理論で「why」(なぜ)にあたるのが、ライフテーマ。
人がどうして職業にかかわる行動をとったのかという理由がライフテーマであり、人が職業行動に意味や方向性を与える解釈や人との関わりのプロセスに注目します。
そして解釈や人との関わりのプロセスは、キャリアストーリーという個人が直面した転機や出来事などの、過去から今までの人生を説明する物語です。
そしてキャリアストーリーにまとまりを与えるものがライフテーマになります。
ライフテーマは、人がなぜこの仕事を選んだのか、なぜ転機をこのように受けとめたかなどの解釈や人とのかかわりであり、人の自己概念において重要なものなのです。
ナラティブキャリアカウンセリングによるライフデザイン
変化がはやく不確実性が高くなった今の社会で、自分の人生を自らデザインし、一見バラバラに見える経験を、統一感のあるストーリーに組み立てていく。
人が自分らしさを維持しながら働き続けるために、自分のキャリアストーリーを構築する、ライフデザインすることを手助けする方法が、ナラティブカウンセリングです。
ナラティブとは「語り」「物語」といった意味です。
その人が生きてきた職業人生に主体的にかかわることが大切なのです。
ライフデザインの大まかな手順は以下のようになります。
- 小さなストーリーを通じてキャリアを構成する
- 小さなストーリーを大きなストーリーへと脱構築し、人生の全体像を再構築する
- 未来の次なるキャリアのストーリーを共に創りあげ、現実の行動に移す
この中で、脱構築とは選択肢を制限するような予測や有害な考え方を取り除くこと、再構築とは小さなストーリーから大きなストーリーをつくりなおすことです。
そしてキャリアストーリーにまとまりを与えるものがライフテーマになります。
キャリア構成インタビュー
ライフデザインの小さなストーリー、つまりキャリアを考える際の手がかりを引きだしていくために用いられるのがキャリア構成インタビューです。
キャリア構成インタビューでは、5つの特徴的な質問を行います。
- 尊敬している人物
- 少年・少女時代に誰に憧れ、尊敬していましたか
- 定期的に見る雑誌やテレビ番組
- 何の雑誌をいつも読んでいますか?いつも見ているテレビ番組はありますか
- 好きな本や映画のストーリー
- 今、本や映画で好きなストーリーは何ですか?そのストーリーを教えてください
- 好きな格言や名言
- あなたの大好きな名言・格言は何ですか
- 最も幼いころの思い出
- 幼いころの思い出は何ですか?3歳から6歳までに起きたことについて3つのストーリーを聞かせてください
クライエントにこれらの質問をして、自由に答えてもらうことで小さなストーリーを引き出します。
そしてこれらの質問は、サビカスによってそれぞれ意味づけされています。
- 尊敬している人物は、ロールモデルを取り出し、自己概念を記述する形容詞を特定します
- 定期的に見る雑誌やテレビ番組は、興味がある環境や活動を特定します
- 好きな本や映画のストーリーは、転機の結果を想定するために用いるストーリーを理解します
- 好きな格言や名言は、自分自身に与える忠告を知ります
- 最も幼いころの思い出は、転機の問題をどの視点から見ているかを理解します
セカンド・キャリアをデザインする
今までの人生は行き当たりばったりだったかなと感じ、これからの人生に不安になったUさんでしたが、今までのキャリアを語るうちに、自分の中にストーリーが見えてきました。
転職を繰り返し一見バラバラに見える経験ですが、自分の中で大切にしてきたテーマが見えてきたのです。
今までのキャリアを振り返ってみると、いつも「人の力を引き出す」ということを大切にしてきたことに気がつきました。
Uさんは、このテーマを軸に、定年後のセカンド・キャリアを考えていくことにしました。
人生100年時代を長くなった人生だからこそ、セカンド・キャリアは大切です。
変化が多く、将来の見通しを立てることが難しくなった今だからこそ、自分の人生は自分でデザインして自分軸のセカンド・キャリアを描きましょう。
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